ルツ *雪のない冬の町2023.1.5
ルツ *雪のない冬の町
〈J〉
冬という
命が閉じる季節に
死者にやさしく寄り添う
町と君の
心は温かく呼吸して
生きているから
君の心で
過去も現在へと呼吸して
ほんの少し先の
未来が育ってゆく
訪れた早春に息吹く
緑のような明るさを
僕は心に灯して
君へと歩んでいくよ
***
南下して
ルツの町に雪はなく
けれど乾いて冷たい空気に
もうもうと湯煙のたつ
ルツは温泉の町だ
僕の故郷にも温泉があり
なんだか故郷へ帰ったような
安心した気持ちになる
人々に開放された
大きく広い浴場で
手足を伸ばして湯に浸かる
冬らしい寒さに縮んでいた
筋肉がほぐれて温まる
浴場をあとにして
温泉街をゆく
大きな荷物を持った
旅人が多く行き交う
彼らの吐く息の白さ
頬の赤さが
新年の始まりを彩る
一月生まれの僕は
いつの間にか年を取っていた
***
いよいよ真ん中の町
ジャミノフへ近付く
まだ見ぬ土地のまだ見ぬ君へと
心が高鳴ってゆく
Distance to you: 3,000km left.
――そらしといろ
作者略歴
Twitter:@cv1016 ブログ:citron voice
1988年生まれ、埼玉県出身。2013年、思潮社より刊行した第一詩集『フラット』(思潮社)で、第24回歴程新鋭賞を受賞。心が萌えたときの感覚を言葉で掴もうとしている。詩集『暁を踏み割って行く』(ふらんす堂)、『もうずっと静かな嵐だ』(ふらんす堂)
無断転載・複製禁止