サロキヒ~ホタニカキア *風に結ばれてゆく2022.5.5
サロキヒ~ホタニカキア *風に結ばれてゆく
〈J〉
この世界の最南端も
始まりの風は冷たいこと
南から北へ
北から南へ
駆けてゆく風の
交差したところに
生まれる熱
命あるもの
影のないもの
すべてに優しく触れてゆく
リンゴ畑の
白くあかるい花盛りに
蝶や小鳥の羽ばたきの
小さな気流は甘やかに香る
遠くそびえる山の
頂きの雪を越えるとき
春と別れて
登山鉄道は
初夏の高原を
颯爽と行く
***
越えてきた季節に
きらめいて応答する
ホタニカキアの湖
釣り人は控えめに
鼻歌をうたう
バケツのなかは
また小さな湖として
魚が一匹跳ねて
砕く水面
借り物の自転車で
一日かけて一周する
湖畔の道の
やわらかな草に
包まれるタイヤの
軽やかに回り 弾み
涼やかな風を
巻き起こして 進み
次の町を想う
豊かに深い森のある
ノトーのこと
Distance to you: 18,700km left.
――そらしといろ
作者略歴
Twitter:@cv1016 ブログ:citron voice
1988年生まれ、埼玉県出身。2013年、思潮社より刊行した第一詩集『フラット』(思潮社)で、第24回歴程新鋭賞を受賞。心が萌えたときの感覚を言葉で掴もうとしている。詩集『暁を踏み割って行く』(ふらんす堂)、『もうずっと静かな嵐だ』(ふらんす堂)
無断転載・複製禁止