タオリーザの星見の丘で2022.11.22
タオリーザの星見の丘で
〈R〉
君からのたよりをタオリーザで読んだ
町はずれの丘には古い天文台がある
夜、星見に行くなら猫を抱いていくといい、あたたかいから
宿の主人はそうすすめてくれたけれど
猫たちはつれなく塀の上や路地の奥からこちらを見つめるばかりで
僕はポケットに手を入れて丘をのぼった
丘に来て星を見上げる人はみなそれぞれの残り時間を抱いて
青白く燃えて傾くあの星は誰かがこころ棲まわせる星
空に書く数式ひとつ星よりははるかに近い君を思えば
また戻る道を背後にまばたきもせず燃え尽きる星を見ていた
かつて僕がそうであったように
子どもたちは星を眺めながら
はるか遠くに思いをはせることを学んでいた
てのひらに星をしのばせ帰りゆく人々かすかに発光しつつ
どの星もひとしく消えてゆく夜明けさびしいけれどかなしくはない
Distance to you: 7,810km left.
――松野志保
作者略歴
Twitter:@matsuno_shiho
1973年、山梨県生まれ。東京大学文学部卒業。高校在学中より短歌を作り始め、雑誌に投稿。1993年、「月光の会」(福島泰樹主宰)入会。2003年から2015年まで同人誌「Es」に参加。
歌集『モイラの裔』(洋々社)、『Too Young To Die』(風媒社)、『われらの狩りの掟』(ふらんす堂)
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