ジャミノフ ふたつの曲線が交わる場所2023.2.25
ジャミノフ ふたつの曲線が交わる場所
〈R〉
あてもなく路地から路地へ歩みつつ思うふたりであるさいわいを
手を引かれ手を引きながらどこまでも潮の香りが追いかけてくる
僕たちは小鳥 互いの名で咽喉を空気をそっと震わせながら
慎重にレモンを貝に絞る指きっと何度も思い出すはず
飲み終えたカップふたつになみなみと注ぎ足すゆたかな沈黙を
それぞれの旅の途上で蚤の市に並ぶランプと陶器の兎
君がくれた時計に耳を押しあてて過ぎゆくもののおおかたは夢
もう神がいない場所にもささやかな祈りはあっていい すこやかに
こころでは重すぎるから絵葉書に名前と今日の日付を記す
路地裏にころがる釦
目瞑ればなお鮮やかな夕暮れの海を背に立つ君の横顔
方眼紙上 関数はただ一度交わりあとは離れゆくのみ
よろこびは確かにあってさっくりと割った柘榴を分け合う夜更け
ともすれば飛び去りそうなたましいを乗せて朝まで揺れるブランコ
旅立てば君の視界に僕はまた言葉あるいは沈黙として
Distance to you: 0km left.
――松野志保
作者略歴
Twitter:@matsuno_shiho
1973年、山梨県生まれ。東京大学文学部卒業。高校在学中より短歌を作り始め、雑誌に投稿。1993年、「月光の会」(福島泰樹主宰)入会。2003年から2015年まで同人誌「Es」に参加。
歌集『モイラの裔』(洋々社)、『Too Young To Die』(風媒社)、『われらの狩りの掟』(ふらんす堂)
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