シカザキワ *境界の香り2022.10.5

 

 

 

詩人・そらしといろと歌人・松野志保によるつれづれ連載。旅の出来ない日常から抜け出してふたりの作り出すキャラクターが架空の世界を旅します。
SNSで知り合った顔の知らないふたりが、ひとりは最北から、ひとりは最南端から――果たしてふたりは世界の真ん中で出会うことができるのか。手紙のように作品を交換して一歩ずつ近づいていくふたり。
月2度の静かな熱の交換をお楽しみに。

 

 

 

シカザキワ *境界の香り

〈J〉

北上する君の

季節の移り変わりは

どのようだろう

君が訪れた島々には

楽園にふさわしく

常春や常夏の気配もある

潮騒に洗われた

珊瑚の白さ

水際を行き来する

船の軽やかな澪

楽園と結ばれる

岸辺へ降り立つ

君の背中を押す

風は少し冷たく吹くか

 

***

 

シカザキワの町を歩く

古い寺院を巡る垣根の

オレンジ色をした

小さな花がほろほろと降る

あたり一面を染めるような

甘い香りに導かれて

寺院の門をくぐった

老いた僧に

花の名を尋ねると

キンモクセイだと言う

北の地では咲かず

暖かな土地の花だと言う

この辺りでは

秋の始まりを告げる

花の香りだと言う

南へと向かう旅の

秋との出会いは

忘れ難く鮮やかだ

 

***

 

甘い花の香りは

ひととき

どこか遠い世界へと

意識を繋げてくれる

もっと遠くへ

もっと南へ

秋の始まりを追って

次はマングナカーンへ

 

 

Distance to you:10,300km left.

 

――そらしといろ

 

 

 

 

作者略歴

そらしといろ(そらし・といろ)

Twitter:@cv1016 ブログ:citron voice
1988年生まれ、埼玉県出身。2013年、思潮社より刊行した第一詩集『フラット』(思潮社)で、第24回歴程新鋭賞を受賞。心が萌えたときの感覚を言葉で掴もうとしている。詩集『暁を踏み割って行く』(ふらんす堂)、『もうずっと静かな嵐だ』(ふらんす堂)

 

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