みつめてなめて 佐藤文香2010.3.14

 

蜜なめて黒瞳かがやく春の暮

(『晩春』)

 春の日は、曇るでもなく白い空。
 その空は、夕暮時に夕焼けの赤橙と混ざり合い、妙な愁いをおびきだす。ぼんやりと色の広がる春の暮れ方。

 

 蜜色の蜜、その瓶の蓋をあけ指にとる蜜、糸をひく蜜は常温、揃えた指を輝かす。
 蜜の指(人差し指と中指)をひらいた口にさし入れて舌で舐めとる、味蕾から脳へ、甘みや粘り、艶までが、強く濃く伝わる。

 

 脳髄に蜜を感じたとき既にみひらいてある目がふたつ。

 

 虹彩の淡い黒色は外側から潤い、瞳孔の漆黒内部は積極的に光を保有し出す。蜜はからだをめぐる。指の唾液は乾いても蜜はかすかに粘りを残す。

 

 春の日の終り、蜜のような夕焼に、濃紺の夜が混ざりはじめる、それを映し瞳はいっそう深い輝きを増す。蜜の瓶は闇に入り闇の黒に蜜をとかす。
 蜜なめて黒瞳かがやく春の暮、みつなめてくろめかがやくはるのくれ。


[著者略歴]

 

佐藤文香 Ayaka SATO

 

1985年兵庫県生まれ。現在愛媛県松山市在住。「ハイクマシーン」「里」所属。愛媛県立松山西中等教育学校「松西ハイカーズ」と俳句活動。俳句と人と、それらを含め面白いと思うものすべてを愛しています。料理に挑戦中、今日は初めて天ぷらを作ったつもりが、「これは唐揚げだ」と母、そうか小麦粉だけだと唐揚げなのですね。なので、まだ天ぷらは作ったことがありません。

 

2006年、第二回芝不器男俳句新人賞対馬康子審査員奨励賞受賞。08年、句集『海藻標本』(ふらんす堂)を上梓、翌09年、第十回雪梁舎俳句まつり宗左近俳句大賞受賞。09年、共著『セレクション俳人プラス 新撰21』(邑書林)。

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