山崎るり子詩集『猫まち』
第53回中日詩人賞2023.7.6

 

7月2日に、名古屋市の電気文化会館にて、第53回中日詩人賞の授賞式が行われた。
受賞されたのは、詩集『猫まち』の作者である詩人の山崎るり子さん

 

この詩集のためにいろいろと尽力をされたご息女の石井まゆさんが出席され、レポートをしてくださった。

 

以下にご紹介します。

 

 

 

 

 

ご挨拶をされる山崎るり子さん。

 

 

私には六十年間帰りを待ち続けている大好きな猫がいます。少し前まで猫はほとんどが外飼いで、年を取るとある日フッと姿を消してしまう。飼い主はいつか帰ってくるとずっと待つことになる。そんな私と同じような人たちが住む町のことを書いたのが詩集『猫まち』です。
この詩集は、ブログで一日一篇ずつ一年間発表したものをまとめたものです。五年前、皆がやっているブログというものを私もやってみたい、と突然思い立ったのですが、パソコンを持っていない。操作も全くわからない。そこで娘に頼み込み、ブログを始めることができたのでした。
『猫まち』を本にまとめるにあたっても、娘が手助けしてくれました。こうして、私は贈りものをもらうように本を手にしたのです。

 

 

 

詩集のお手伝いをされたご息女の石井まゆさん。

 

 

 

山崎るり子の娘のまゆです。今回受賞した『猫まち』に、なぜだかとても深く関わったので、今こうしてお話しすることになりました。

母は長野県の田舎に生まれ育ちました。絵を描いたり漫画を読むのが好きな少女で、特に手塚治虫さんと大島弓子さんの漫画の大ファンで強く影響を受けたと聞いています。

母が詩を書き始めたのは45歳、私が中学生の頃です。私もだんだん自立していく時期だったので、私にとって母の詩はときどき本ができると読んで感想を言う、くらいのものでした。その後、私は進学、就職、結婚、出産と大きくライフステージが変わり、母は淡々と詩を書き続けておりました。

そんな私と母の詩が急接近したのが、今回の『猫まち』です。『猫まち』はもともと、ブログで発表した詩を本にまとめたものです。母から「ブログをやってみたいから手伝って」と言われて関わることになりました。最初は、「70歳近いのに新たなチャレンジをするなんてえらいな」と思って尊敬したんです。ただ、やってみたら、母は東京にいる私にいつも通り、ダイソーで買った原稿用紙に詩を手書きして送ってくる、それを私がブログにアップするというスタイルだったんです。だから母がブログをやっている、というのにはちょっと疑問は残りますが、一年間、毎日一つ詩を発表するという挑戦をやり遂げたことはすごいと思いました。

このブログを本にまとめてみたらという発案は私の妹からだそうです。母はこの新しいチャレンジを本にまとめるのだから、今までとは違うイメージにしたいという希望がありました。
そこで私がふらんす堂という出版社はどうかな、と提案したんです。これはすごいお手柄なので強く言いたいのですが、私がおすすめしたんです!
ふらんす堂が今私の住んでいる東京の調布市にあることや、短歌や俳句、詩の本をたくさん出していることを知っていたのです。そこで母もそんなご縁があるならいいかもしれない、ということで「じゃあ、あなた近いんだから少し話を聞いてきて頂戴よ」となったわけです。

そこで私は子供たちを小学校や幼稚園に送り出した後、自転車に母の原稿を積んでふらんす堂へ行き、代表の山岡さんとお会いしました。出版についてのお話をひととおり伺ったあと、雑談で猫の話になりました。山岡さんも大変猫がお好きで、この詩集の内容にもとても共感してくださいました。さらに、山岡さんは猫を飼っていらっしゃって、その猫がなんと、大島弓子さんから頂いた猫だというんです! 母が大ファンの、あの漫画家の大島弓子さんです! 私はほんとうにびっくりして、母がどんなによろこぶだろうとワクワクしながら家に帰りました。

そして私はあえて、普通な感じで母に電話をして、「こんな出版社だったよ、出版に当たってはこういう感じで・・」と報告しまして、最後に「ところで、代表の山岡さんは猫好きで、猫を飼ってらっしゃるんだけど、その猫はなんと・・大島弓子さんからもらった猫なんだって!」っと発表しました。その時の母の興奮はすさまじく、電話から飛び出てくるんじゃないかと思いました。少女のころから何十年も大好きで、憧れ続けた大島弓子さんと細い細い糸がつながった喜びで、母は夢見心地でした。

 こうして、迷うことなくこの『猫まち』はふらんす堂さんでお世話になることになったのです。
母からまたまた「家も近いんだし」と頼まれて、私も本づくりの作業に加わることになりました。ふらんす堂とのやりとりの窓口は私で、私が打ち合わせしたり、メールのやり取りをして、母に報告する。ゲラという本の校正刷りなども一度私に送ってもらって、私が目を通したものを母に送って意見交換する。途中からは妹も巻き込まれて、『猫まち』のゲラはふらんす堂から私、私から母、母から妹、そしてそれをまたふらんす堂へ、と放浪猫のようにふらふらふらふらと渡り歩きました。

母は内弁慶で、家ではいばってるんですけど、外では気を使いすぎて疲れちゃう性格です。今もたぶんカチカチになっていると思います。この本では、私が母とふらんす堂の間に入っているので、母は思う存分「ここがちがう」「こうしてほしい」と希望を出して、「あなたからうまいことお願いしてちょうだい」。そんなわがままをふらんす堂のみなさんが本当にセンス良くまとめてくださって、おかげで素敵な本が出来上がりました。また、山岡さんが、ご好意で大島弓子さんへ『猫まち』を一冊送ってくださいました。

母は時々自分と娘二人をあわせてちゃっかり「三姉妹」と呼ぶのですが、この本は三姉妹の思い出深い本となりました。それがこの中日詩賞という私たち姉妹の生まれ育った、(これは本当の意味の姉妹の方ですが、)この地と縁のある賞をいただけたこと 本当にうれしく思っております。
今日はありがとうございました。

 

 

 

 

山崎るり子さん(右)と石井まゆさん

 

 

 

山崎るり子さま、 石井まゆさま

 

この度のご受賞おめでとうございます!!
とても楽しい本づくりでした。178.png178.png178.png178.png178.png
帯文を書かれた石黒亜矢子さん、装画を寄せられたさかたきよこさん。
このお二人のお力もいただき、とても素敵な一冊が出来上がったと思います。
「猫」の本の詩集、
ふらんす堂にとってもうれしい一冊であります。

 

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