河津聖恵詩集『綵歌』
第41回現代詩人賞授賞式2023.6.4

 

今日は、アルカディア市ヶ谷にて「日本の詩祭 2023」が行われる。

 

 

二つの詩の賞の授賞式がある。
第73回H賞と第41回現代詩人賞である。

 

第73回H賞を受賞されたのは、小野絵里華さんの詩集『エリカについて』(左右社)。

 

第41回現代詩人賞の受賞は河津聖恵さんの『綵歌』(ふらんす堂)
ちなみに河津聖恵さんは、20年前に詩集『アリア、この裸体のために』(ふらんす堂)で、第54回H賞を受賞されている。

 

「日本の詩祭」はプログラムにあるように、大変盛りだくさんである。
第1部は、贈呈式と先達詩人・郷原宏さんの顕彰。
第2部は、歌人・小池光さんの講演「斎藤茂吉について
これは最晩年の茂吉の短歌を紹介しながら、歌人・斎藤茂吉という人間の知られざる面白さと晩年の短歌の魅力について語ったもので、会場の笑いをさそいながらのお話だった。
もう一つは、松岡けいこさんによるシャンソン。わたしの世代にはなつかしい歌がいろいろと歌われて、会場に集まった人たちはみなうっとりと聴きいっていた。
第3部は親睦会。なつかしい方にお目にかかったりもした。

 

 

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会場風景

 

 

 

河津聖恵さんのご挨拶を、抜粋となってしまうがご紹介したい。

 

 

 

 

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河津聖恵さん

 

 

なぜ若冲をテーマとして選んだか。それはひとえに若冲の絵の生命力につよく惹かれたからです。さらにその生命力はつめたい作品意識と死の不安に裏打ちされていてそれゆえに現代的な鋭さと透明な土壌も感じられます。
5年半わたしはそのような若冲の絵と詩の言葉の間を抱懐しつづけました。が、やがて若冲の絵に引かれる自分自身も見えてきました。それは若冲の絵によって蘇生しようとする自分自身でした。蘇生への渇望がかき立てられることでもありました。この蘇生への渇望、それこそがわたしの詩の原動力となってきたものだと思います。
H賞を受賞した翌年はからずも大病をわずらいました。それ以後身体は癒えても心はなかなか癒えず、詩作もまともに出来ない状態がつづきました。けれど詩を書きたいう思いがどこかに消えずに残っていてそれ故にもがきつづけもしましたが、やがて自分の苦しみや不安がたとえそれがどんなものであっても、詩を書くことでしか癒やされないということが分かってきました。そしてある段階になると詩を書くことで死をも克服できる、前よりつよく生きられるという境地がみえてきました。わたしは、2007年より詩作活動を開始しました。

今振り返ってみますと、詩作活動をとおして、蘇生への渇望は社会や世界に対する危機感から生まれることがわかります。実は若冲も危機感から絵を描いていました。その背景には愛する人々の死という不条理、経済格差がもたらす社会不安、さまざまな自然災害、若冲の危機感は今を生きるわたしたちと何も変わらないのです。また、若冲には弱者のために権力にあらがう強さと仏への深い信仰心がありました。そのことも今を生きる私たちにつよく訴えるものがあります。

つまりさまざまな意味で若冲の18世紀とこの21世紀は浸透しているのかもしれません。5年半、この連作を書きながら、私は蘇生へと向かっていきました。そして今私は詩には過去や死者をよみがえらせる力があるとさえ思っています。今回の受賞をはげみにそうした力をさぐっていき、そしてまた新たな境地へと向かっていきたいと思っております。

 

 

 

 

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左より、八木幹夫会長、河津聖恵さん、水島英己さん(『綵歌』評)、朝倉宏哉選考委員長の皆さま。

 

朝倉宏哉さんの選考経過報告は、応募詩集が丁寧によまれ、何度かの選考をとおった結果のものとわかるものだった。
水島英己さんは、冊子「現代詩」の選評で、
「戦前」、「前夜」に転落しつつある「今、ここ」の変化に河津聖恵さんの詩集『綵歌』の到来の理由がある、その受賞の意味があるのだと私は考える」と書かれている。

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詩人の伊藤悠子さんと。

 

 

伊藤悠子さんは選考委員のお一人で、「とても倖せな選考会でした」と河津さんの受賞をとても喜ばれていた。

 

 

 

 

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詩集『綵歌』

 

 

 

 霏霏? 芦雁図
?
?
?
 霏霏(ひひ)といううつくしい無音を
 とらえうるガラスの耳が
 多くのひとから喪われつつあった時代
 ひとひらふたひら
 空が溶けるように 今また春の雪は降りだし
 この世の底から物憂く絵師は見上げる
 見知らぬ鳥の影に襲われたかのように
 煙管を落とし 片手をゆっくりかざしながら
?
 雪片ははげしく耳をとおりすぎ
 ことばの彼方に無数の廃星が落ちてゆく
 ひとの力ではとどめえない冷たい落下に
 絵師は優しく打ちのめされる
 愛する者がはかなくなって間もない朝
 この世を充たし始めた冷たい無力に
 指先までゆだねてしまうと
 庭の芦の葉が心のようにざわめき
 この世はふいにかたむいた
 雁がひとの大きさで墜落し
 風切羽を漆黒に燃やして真白き死をえらんだ
?
 笑うように眠りかけて指先はふるえる
 乾いた筆が思わず
 共振れする 霏霏
 「見る」と「聴く」 「描きたい」と「書きたい」
 ひえびえと裂かれてゆく深淵に雪はふりつむ
 眠りに落ちた絵師は
 ついに胡粉に触れた
 骨白に燦めく微塵の生誕を見すごさなかった筆先

 

 

 

 

河津聖恵さま、現代詩人賞のご受賞あらためておめでとうございます。
また、H賞をご受賞された小野絵里華さま、ご受賞おめでとうございます。

 

おふたりのご受賞をこころよりお祝いを申し上げます。

 

 

 

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