境野大波句集『青葉抄』
出版記念会2016.5.11

 

今日はお昼から新宿の謝朋殿で第3句集『青葉抄(せいようしょう)』を刊行された境野大波さんの出版をお祝いする記念会が開かれた。
境野大波さんが主宰をされていた俳誌「大(ひろ)」に関わっていた人たちを中心に、現在大波さんが所属する俳誌「椋」のお仲間も加わって、大波さんを囲んであたたかな記念の会となった。

 

今回皆さんより、境野さんへお祝いの句をいただいた。ご都合によって出席できない方にもである。

 

それをまとめて皆さんにお渡ししたのがこれ。

 

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大波さん、とても喜んでくださった。
(この可愛いカットは市川七菜さんがお返事の葉書に描かれていたものを使わせてもらいました。)

 

 一矢射る顔に青葉の照り返し    大波  (序句)

 

お祝いの句。 

 

 風の香や蝦蟇の油の香具師に惚れ   荒井八雪
 きらきらと光に遊ぶ青葉風       市川七菜
 街騒のやがてやさしき青葉騒      石田郷子
 青葉より飛び立つもののきらきらと    遠藤千鶴羽
 頁繰るたび薫風の新たなり       太田うさぎ
 大波とさざ波ひと日青田風       尾崎淳子
 あでやかに青葉となりて照り返す     海津篤子
 八人の王子の丘の風青し        川島 葵
 『青葉抄』卓にひろげてあたたかし    菊田一平
 眩しさに騒ぐ青葉に酔ふべかり      鈴木不意
 緑蔭に憩ひて海を臨みけり       土岐光一
 水あれば人集ひくる青葉かな      武井伸子
 その影に吾を容れたる青葉かな     立本美知代
 青葉へと寄せてはかへす波のむた    長嶺千晶
 青葉繰るやうに頁を繰りにけり      藤井あかり
 大波と小波と遊ぶ春の海        雪我狂流

 

荒井八雪さんの「蝦蟇の油の香具師に惚れ」は、かつて荒井八雪さんの出版をお祝いする会で、境野大波さんが「蝦蟇の油の香具師」になって口上をのべたその姿にすっかり惚れてしまった、ということによる挨拶句であるということ。

ご参加の長嶺千晶さんは、句集『青葉抄』に帯文を寄せてくださった。

 

 

句集の題とした「青葉」は、実は、仙台の俳人であった私の実父の俳号でもあった。「せいよう」と呼ばせた。亡父は昭和五三年に七三歳で永眠したので、今の私は、父の享年を五年も超えている。この父からは、生前、俳句について何の教えも受けておらず、俳句をめぐって一言の会話を交わしたことさえなかった。
それなのに、今、私の句の数々の背後には、俳人青葉の影が差しているような気がするのである。句の低音部を父の声が流れている、と言ったらいいだろうか。何故なのかはわからない。
それが親子の絆というものなのかもしれず、よって「青葉抄」を書名とした。

 

 

この文章は句集『青葉抄』のあとがきの一部である。

 

今日の大波さんのご挨拶は、この「青葉(せいよう)」という俳号をもつお父さまへの思いを語ったものとなった。

 

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今日は皆さま集まっていただきありがとうございます。
句集のタイトルを「青葉抄(せいようしょう)」としたのは、親父が境野青葉(さかいの・せいよう)という俳人だったんですが、そのことをあとがきにも書いたんですけど、実は親父は喉頭ガンで手術をして、亡くなる前は声が出せなくなったんです。声帯をとっちゃったんです。あとがきにはああいうふうに書いたんですけど、肉声で親父に褒めて欲しかったというのが本当の気持ちなんです。
親父とは俳句の話というのはまったくしませんでした。その頃僕は生意気で現代詩に狂ってて、親父に度々第三芸術論をふっかけて、だけど親父は本当に人間の出来た男で、僕がむちゃくちゃなことをいっても「へへへ」とか言って笑って一切相手にしませんでした。口数の少ない親父でしたけど。本当は親父に俳句を教えてもらいたかったです。ゆうべ、親父の『夏の暾(ひ)』という句集を徹夜で読んでしまったんですけど、これに声帯を失った句があります。夏の暾という題になった句です。手術の終わった次の日の朝に詠んだ句なんです。怒られたそうですよ、手術してベッドで寝てるのに句帳を枕元から放さないでなんか書いてるんですから。そうやって親父は俳人としての一生を通したんです。僕はそれを思うと「こんな句集を出してよかったのかな」って親父にききたくなります。そういう声を聞きたかったというのがあとがきの意味です。「みちのくの大寒に耐へ病に耐へ」「夏の暾の巨きく上り生命惜し」つまり一命助かったと。「唖となりしことも神の意桔梗に」という句もつくっています。親父はクリスチャンだったんです。
というような親父だったんです。本当に俳句を教えてほしかったです。
この境野青葉さんというのは、俳句年鑑に沢木欣一先生に「この人の句は一見目立たなくてつまらないんだけども、よく読むとみんな良い句だ。佳句である。滋味掬すべき俳人とはこういう人のことを言う」みたいなことを書かれました。僕が俳句を始めた当初のころはわからなかったんですが、最近になってだんだん分かってきました。すごくいい俳人だったと思います。ふらんす堂さんに出版して貰いたかったです。(笑)
まず、親父の恩を受け、妻の小波(こなみ)は最後まで僕を支えてくれましたし。
今思うことは俳句は一個人ではできない。やっぱり人と人の繋がりがないと出来ないと思います。
今ここにいるみんなが居たから俳句が詠めたし、句集を一冊出せたんだと思います。
みんなに感謝以外の気持ちはありません。本当にありがとうございました!

 

大波さんのお父さまは仙台在住の俳人で、遠藤梧逸主宰の俳誌「みちのく」の編集長を10数年にわたって務めた方である。

 

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みんなで記念写真。

 

手前ひだりより尾崎淳子、荒井八雪、境野大波、長嶺千晶、川島葵、後右より太田うさぎ、菊田一平、遠藤千鶴羽、武井伸子、土岐光一、鈴木不意、(継承略)の皆さま。
 

境野大波さま、句集のご出版おめでとうございます。
句集『青葉抄』はすばらしい句集でした。
「滋味掬すべき俳人」という澤木欣一の言葉はそのまま大波さんにも通用するような。。。
この度の句集のご出版を機にさらに輝いてくださいませ。

 

境野さんとのご縁はふかく、これまで3冊の句集、1冊の詩集、そして奥さまである境野こなみさんの遺句集と遺歌集を刊行させていただいている。

 
 
 
(ふらんす堂「編集日記」2016/5/11より抜粋/Yamaoka Kimiko)
 
 

 

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